情報通信業における長時間残業とメンタルヘルスケア

 独立行政法人労働政策研究・研修機構は、2016年11月、労働政策研究報告書№185「働き方の二極化と正社員-JILPTアンケート調査二次分析結果-」を発表しました。

 同報告書では、第6章において、「情報通信業における長時間残業の要因とその影響」が取り上げられているので、紹介します。

 情報通信業において月の残業時間が「60時間以上」の者の割合は12.0%と全産業平均8.1%を上回っています。この点は過労死等防止対策白書でも指摘されており、情報通信業が長時間残業が多い傾向にあることは否定できないでしょう。

 職業性ストレスモデルである「仕事の要求-コントロール-支援モデル」では、仕事の要求度が高く、仕事の裁量度が低く、職場の支援度が低い場合はストレス反応が生じやすくなります。

 第1に仕事の要求度を見ると、「たまに指示を受ける程度で、おおむね本人の判断による仕事」や「ほぼ指示を受けずに、本人の判断で行う仕事」という非定型的な業務に従事する者のうち、月の残業時間が「60時間以上」である割合はそれぞれ17.2%、13.9%と、全産業平均の10.2%、9.8%よりも高い傾向にあります。

 第2に仕事の裁量度を見ると、「仕事のやり方」を自分で決定できるかについて「ほとんどできない」、「まったくできない」と回答した者のうち、月の残業時間が「60時間以上」である割合はそれぞれ15.4%、13.0%と、全産業平均の8.2%、7.8%よりも高い傾向にあり、「ほとんどできない」では2倍近くの差がついています。また、「仕事の量」を自分で決定できるかについて「ほとんどできない」、「まったくできない」と回答した者のうち、月の残業時間が「60時間以上」である割合はそれぞれ13.2%、21.8%と、全産業平均の8.7%、10.6%よりも高い傾向にあり、「まったくできない」では2倍以上の差がついています。

 残業が発生する理由(複数回答可)については、「業務量が多い」、「納期にゆとりがない」、「突発的に仕事が飛び込んでくるから」の順に回答数が多いのですが、月の残業時間が「60時間以上」である者は「目標値・ノルマが高い」(27.4%)を一番に挙げています。また、「利益目標」、「売上目標」、「成果物の数の目標」、「チャレンジングな活動目標」、「プロセスに関する目標」が設定されている者のうち月の残業時間が「60時間以上」である割合がいずれの目標設定においても全産業平均より高い傾向にあります。報告書は、「『成果物の数の目標が設定されている』場合に、長時間残業の傾向にある」と指摘しています。

 このことから情報通信業においては、「目標値・ノルマが高い」→長時間残業→仕事の要求度の上昇という図式となり、業務量の多さや短納期といった仕事の裁量度の低さと相俟って、ストレス度が高くなるといえます。

 月の残業時間が「60時間以上」である者が「目標となる先輩や上司がいない」ことを「非常に感じる」、「やや感じる」と回答した割合が計57.4%と、月の残業時間が「0時間(残業なし)」である者の回答割合47.4%より10ポイントも高くなっています。これは、「60時間以上」と回答した者の67.6%が技術系専門職(研究開発、設計、SE等)であることから、報告書でも指摘されている正社員(特にITエンジニア)のメンタルヘルス不調率、休職率、退職率の高さが影響していると考えられます。すなわち、システムエンジニアやプログラマーの長時間残業→メンタルヘルス不調→休職・退職→職場の支援度の低下という図式の悪循環が起こり、さらにストレス度が高まって新たなメンタルヘルス不調者を生み出している可能性があります。

 また、月の残業時間が「60時間以上」である者が「前年度の成績や業績により、次年度の月給が下がることがある」と回答した割合が40.7%と、全産業平均の29.1%より高く、成績や業績が成果物の数で評価されると長時間残業が多くなるといえます。長時間残業に従事したのに月給が下がれば、別の職業性ストレスモデルである「努力-報酬不均衡モデル」から見てストレス度が高くなります。

 そして、報告書では、月の残業時間が「60時間以上」である者が「仕事全体」について「あまり満足していない」、「満足していない」と回答した割合が計47.3%と、月の残業時間が「0時間(残業なし)」である者の回答割合18.6%より約30ポイント高く、全産業平均の28.6%より約20ポイント高くなっています。

 今後の情報通信業においては、長時間残業を減少して、従業員の仕事満足度を高めることが経営戦略上重要になっているといえます。そのためには人員増加などにより従業員1人当たりの業務量を減らし、納期にゆとりを持った受注を心がけ、納期前のトラブルには迅速な応援態勢を敷くことが必要です。これにより所定休日を確実に取得し、さらに年次有給休暇を取得しやすい職場環境を作り上げ、適時にストレスや疲労を解消してもらいましょう。一方、目標設定をするにしても従業員の意思を尊重しつつ、目標設定に関わる仕事量に対する裁量度を高め、また従業員の成績や業績に関して客観的な評価とフィードバックをするとともに、月給額へ適正に反映させることが肝要です。

 このことにより、月の残業時間が「60時間以上」である者が回答した割合が多い「キャリアの方向性がみえない」、「仕事のモチベーションを維持できない」を改善することができます。当然ながらメンタルヘルス不調者が減少し、休職率や退職率が低下するので、職場のノウハウや経験が蓄積され、労働生産性が向上していくことになるでしょう。


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