病気を職場に知られたくない労働者への対応

 心筋炎に罹患した労働者から病気を上司や同僚に知らせないでほしいと人事部に申告があり、病気に配慮して軽易な業務中心の部署に配属したけれども、当該労働者だけが治療のため年次有給休暇(年休)をすべて取得していることについて同じ部署の同僚から不満が出ている場合、そのことを職場に伝えるべきなのでしょうか。

 使用者は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して10日以上の年休を与えなければならず、また労働者の請求する時季に年休を与えなければなりません。

 年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるというのが最高裁判例ですから、心筋炎に罹患した労働者が年休を治療や療養に充てていることは自由であり、本来、同じ部署の同僚が不満を持つべきことではありません。

 同僚に不満が生じている原因が、当該労働者だけが年休をすべて取得していることにあるのであれば、使用者としては、心筋炎に罹患していることを職場に伝えて説得するのではなく、年休の趣旨を理解してもらうとともに、他の労働者にも年休取得を勧奨することが必要です。

 他方、同僚の不満が年休取得自体ではなく、それにより同僚の業務量が増加していることに原因があるならば、使用者としては、当該部署の労働者全員が事業の正常な運営を妨げない範囲で年休を取得することができるよう、人員配置の見直しや業務量の調整などの措置を講じるべきです。

 ですから、心筋炎に罹患した労働者が年休を取得しているだけでは、疾病や治療の事実を同じ部署の同僚に告知するという問題は生じてきません。

 これに対し、心筋炎に罹患した労働者が、病気の悪化により、年休をすべて取得して病気欠勤を繰り返し、就業上の配慮をしなければならなくなった場合、職場の全員に知らせるのかどうかはともかく、少なくとも上司には説明する必要が出てくるでしょう。

 ただ、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報取扱事業者である使用者は、個人情報保護法に定められた義務を遵守しなければならなくなりました。労働者自身の健康診断の結果や病歴などの健康に関する情報などの個人情報も個人情報保護法の保護対象となります。

 個人情報保護法は、個人情報取扱事業者である使用者が健康情報の利用目的を特定し、その範囲内での利用を義務づけています。健康情報を職場の上司に伝えて就業上の配慮を具体的に検討するのであれば、この利用目的を労働者に通知するか、公表しなければなりません。

 また、心筋炎という疾病名や病状はプライバシーに属する情報であり、当該労働者から自分の病気を上司や同僚に知らせないでほしいと言われている以上、使用者としては、上司に対して病気の状態や療養の必要性について説明する前に、あらかじめ当該労働者の同意を得ることが肝要です。

 当該労働者に対しては、疾病名、進行状態、治療内容、療養期間などについて、どの程度の情報を上司に伝えてよいのかを具体的に確認し、煩瑣となっても、同意書を取っておいた方が無難でしょう。


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