病気社員の業績評価・能力評価の公平性を担保するには

 腎臓病に罹患し、人工透析や定期的な検査入院を要する労働者について、業績評価や能力評価を行う際には従前より低い評価になる場合、同僚との処遇の公平性を保つために何らかの配慮を行う必要があるのでしょうか。

 近時、日本の企業は、年功的賃金制度の基本となる定額給や年齢給と併用あるいはこれに替えて職能資格制度に基づく職能給を導入しているところが多くなり、さらに能力・成績主義の強化がされ、定期的に設定した目標に向かって職務を遂行し、その結果得られた実績に対して労働価値(貢献度)を評価する目標管理制度、または成果主義賃金制度が採用されています。

 職能給や成績給は上司の人事考課(査定)によって決定されるので、上司によって能力や成果が適正に評価されず、人事考課(査定)が恣意的に運用されると、昇格差別や昇給差別が生じるとの弊害が指摘されています。この点に関する裁判例の傾向は、人事考課(査定)について使用者の裁量を認めた上で、その裁量を逸脱した場合に損害賠償を命じることが多いです。

 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することによって成立します。この労働をすることが労働者の使用者に対して負う義務であり、労働をしなければ使用者に対する賃金の支払を請求する権利は発生しません。したがって、労働者は、労働契約により定められた内容の「労働」をするために必要な健康を保持しなければなりません。このように健康な心身を保持して労働することが労働契約から求められていますので、健康な心身を保持できず、労働契約に定められた労働をすることができなければ、債務の本旨に従った履行の提供をしたことにはならず、業績評価や能力評価が低いことになる場合があります。

 腎臓病に罹患した労働者が、例えば、総合的な判断を要する基幹的業務に従事する総合職として雇用され、総合職に求められる業務に従事してきたのであれば、あくまで労働義務の内容は総合職として与えられた業務です。人工透析や定期的な検査入院をしたり、病気の影響で疲れやすかったりするため、労働契約に基づいて与えられた業務を遂行するのに支障が出ているのであれば、当該労働者の労働契約に基づく労働義務を履行したことにはなりません。とすれば、従前より業績評価や能力評価が低い評価になってしまうのはやむを得ないともいえます。

 しかし、病者であることを前提として就労継続をするときは、病者である、身体障害があるという前提で業績評価や能力評価を行う必要があります。当該労働者の目標が設定されるとき、上司から「あなたはこのくらいやれるのではないか」と同僚と同様の目標を言われて、病気を理由に「やれません」と答えると、他の健康な労働者と比べて低い目標が設定されて人事考課(査定)が下がる、あるいは逆に「やります」と答えると自発的に目標を設定したことにさせられたことになります。しかしながら、当該労働者にとって無理な目標であれば、これを達成できないことにより、人事考課(査定)が下がる、その結果、減給される、降格・降職される、場合によっては能力がないと判断されて解雇されるという取扱いは公正な査定を尽くしたとはいえません。やはり重度の腎臓病に罹患して人工透析や定期的な検査入院を要する、また病気の影響で非常に疲れやすいという労働者を基準にして人事考課(査定)するのが公正といえます。

 他方、当該労働者が総合職であるとして、総合職として求められる業務に従事できないのに、業績評価や能力評価において配慮されて、むしろ他の健康な労働者よりも人事考課(査定)が高いということになれば、逆に同僚との関係で公正とはいえなくなりますので、留意してください。


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