労働者側請求対応の法律知識-債権の消滅時効

 債権に関する民法が改正され、2020年に施行されます。過労死や労災事故をめぐる安全配慮義務については、債権(損害賠償請求権)の消滅時効が問題となります。

 現行民法は、権利を行使することができる時から10年間と定めていますが、改正民法は、生命・身体の侵害による場合は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間または②権利を行使することができる時から20年間と定めました。

 ①について、現行民法よりも消滅時効期間が短くなったと単純に評価することはできません。売買契約であれば代金の支払日が定められているのが通常であり、約定期日に売買代金が支払われなければ、債権者である売り主は「権利を行使することができることを知った」といえますが、過労死をした日に使用者が損害賠償金を支払わなければ、債権者である遺族が「権利を行使することができることを知った」とまでは認められないからです。

 この点につき、契約関係にない不法行為(例:交通事故)に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知った時を時効進行の起算点とするのですが、これは被害者が損害の発生を現実に認識し、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時と解するのが最高裁判例です。そうすると、労働基準監督署長が労災認定の決定をしたときに損害および加害者を知ったと認められる場合があり、①についても同様に解釈することができます。現行民法では、「権利を行使することができる時」を過労死した日とすればその日から10年間経過すると消滅時効が完成すると解されるのですが、改正民法のもとでは、過労死をした日から5年間が経過した後に労災認定され、その時点で過労死による損害および加害者である使用者または履行補助者である管理職を知り、この時点が「権利を行使することができることを知った時」と評価されることになり、現行民法の10年間より後に消滅時効が完成するケースも出てきます。

 企業としては、長時間労働などの過重労働が明らかな事案はもちろんのこと、過重労働とは認められないのに紛争が懸念される事案については、例えば労働時間に関する記録が3年、健康診断や面接指導の結果に関する記録が5年と保存期限を定めていても、期限を超過した記録を保存するかどうかを検討する必要が出てくるでしょう。

 なお、民法の改正に伴い労働基準法が改正され、賃金等の債権の消滅時効期間が2年から5年に伸びる可能性があるので、残業代請求にも留意する必要があるでしょう。


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