4. 労働災害(労災)・過労死が発生したら

 従業員そのものをリスクと捉えず、人格を持った人間として信頼する-この「信頼」を基礎に従業員の健康を守ることが企業の収益に結びつくことは既に述べました。

 労働災害(労災)・過労死事件が発生した段階でも、「信頼」を基礎とした戦略的労使関係を念頭に置いて対応することが重要です。この理念のもとに対処すれば、紛争の発生や長期化というリスクをより減らすことはできるでしょう。

 被災した従業員や遺家族が会社を訴えるメルクマールは、会社との信頼関係が破壊されたと感じるかどうかです。従業員側は、過重労働によるストレスに対する辛い思い、健康障害による労働能力喪失、最愛の家族が苦しんだ挙げ句生命を奪われた哀しみといった感情を抱いています。これに加えて、遺族は真実を知りたいという気持ちがあります。このような感情や気持ちが害されたとき、従業員側は、会社との信頼関係が破壊されたと考え、紛争に発展するのです。

 したがって、会社としては、まず従業員側の言い分に耳を傾け、相手の立場に立って気持ちを理解することが必要です。従業員側の話を聞く際には、先入観を持たずに、素直に聴く、話の腰を折らないという態度が必要です。ただし、共感しすぎる必要はありません。

 また、担当者が私見を述べる、断定的な言辞をする、反論や否定をするのは、相談を受ける側が固有の価値観を押しつけたと受け止められ、従業員側の会社への不満が昂じて、感情を悪化させます。

 また、初期対応を迅速に行うことが重要で、早期に証拠保全や事情聴取を行う、窓口を一本化する、適時に従業員側に連絡を取ることが必要です。この段階で、不幸な出来事が発生したこと、報告が遅れたこと、説明に行き違いがあったことについて陳謝することを躊躇しない方がよいです。陳謝したからといって法的な責任が直ちに発生するというわけではありません。むしろ従業員側の感情を和らげることになるでしょう。

 そして、事実調査をしたら早期に報告すべきですし、事実の隠蔽や虚偽報告をしてはなりません。特に遺族はどのような仕事をしていたのか、職場で何があったのかを知りたいのであり、そもそも調査拒否をすると感情悪化につながります。

 事実調査の結果、会社として陳謝する事案か、それとも争う事案かの方針を決めます。前者の例として長時間労働があった、後者の例としてパワハラの事実は確認できなかったといった結果が判明したら、受け身の姿勢ではなく、従業員側の心情を理解しつつ、裁判に至った場合の影響を予測し、早期に方針を決めましょう。

 「陳謝する事案」であれば、早期に情報を開示して示談の申し入れをした方がよいです。この場合、示談と裁判のラインをあらかじめ引いて交渉することになります。このラインは裁判例をもとに検討することになり、従業員側がラインを大幅に上回った請求をしてくるのであれば示談による解決ができなくても致し方ないでしょう。

 「争う事案」であっても、裁判になるとイメージダウンにより売上の低下に影響するといった観点から示談を申し入れるとの検討が必要ですし、新たな証拠が見つかるなどして方針決定の前提が崩れた場合は「示談と裁判のライン」を引き上げるといった早期の方針変更をする必要があります。

 示談交渉や裁判となり、紛争に発展した段階では、従業員側との「信頼」だけでなく、危機管理と企業防衛という視点を取り込んで検討しなければなりません。初期段階での「議論をしない」という対応もとる必要はなく、反論すべき点は反論した方がよいです。その場合でも、反論の時期や表現によっては従業員側の感情が悪化することがあるので、慎重な検討をしましょう。


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