2. 「ヒト」の強みとステークホルダーとの信頼関係

 経営戦略を立てる軸として、経営理念が確定されなければなりません。企業の社会的責任(CSR)を果たすための使命として、ステークホルダーである従業員の利益に配慮することが挙げられ、これが従業員の健康を守るという経営理念になり得ます。他方で、会社の経営者は株主の利益も図らなければなりませんので、従業員には元気で働いてもらい、労働生産性を向上させて、売上げを増加させて、営業利益を増加させる必要があります。

 従業員に長時間労働に従事させて、疲労を蓄積させ、健康障害を引き起こすというのは、従業員の自己実現にとって不幸なことです。従業員がメンタルヘルス不調に陥ると、作業効率や集中力・注意力が低下し、労働生産性(パフォーマンス)が下がりますが、これは、会社にとって、そして他のステークホルダーである株主にとっても不幸です。

 不幸な事態を回避するためには、従業員の健康に関し、「快適な職場環境を実現し、労働条件を改善して、従業員の健康を確保することにより、労働生産性を向上させる」というのが経営理念になります。

 そして、経営戦略の策定に当たっては、自社の現状分析をすることが重要となります。外部環境と内部環境に分けて環境分析をすることが一般的ですが、従業員の健康は内部環境に位置づけられます。経営資源である「ヒト」は、従業員の事務処理能力や営業能力、取引先・顧客との関係構築などが重要な要素となります。従業員が健康でなければその能力は低下するでしょうし、取引先や顧客との信頼関係も築けないでしょう。これが内部環境における自社の「弱み」となります。この「弱み」を見誤ったまま環境分析をすれば、経営戦略も現状を認識できていない誤ったものとなり、外部環境において取引の「機会」があったとしても、これを逸することになります。

 逆に、従業員が健康で生き生きと仕事をしており、職場内の意思疎通ができているのであれば、労働生産性が向上しますので、それが内部環境における自社の「強み」となり、市場や顧客に対して積極的な攻勢を掛けることができるようになります。

 また、従業員がうつ病を発病すると思考力や集中力が低下するとともに、欠勤、休職、退職した場合には会社にとって損失となります。他方、人材流出や残業代を減らせば低コストとなり、さらに従業員の健康を保持して職場が活性化すれば、自社の製品やサービスが高品質化するとともに、顧客や取引先との関係を良好にして会社のイメージや信用が向上するでしょう。

 ヒトを雇うということは、会社と従業員との継続的な信頼関係が基礎となります。とすれば、「信頼」を基礎とした過労による健康障害の予防策が必要ではないでしょうか。会社と従業員との関係も千差万別であり、マニュアル通りにいかないことが多いでしょう。そうであっても、「信頼」を基礎に従業員の健康を守るという経営理念を打ち立てて、そこから具体的なケースにおける対処法を考えていくことが肝要です。

 この観点から、計画(Plan)を策定し、労使が一致してこれを実行し(Do)、その実績と計画との際を分析して原因を検討し(Check)、今後の対策を練る(Act)という、いわゆるPDCAサイクルにより、経営理念の実現に向けた取り組みをしましょう。


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