ニューズレター「企業のためのメンタルヘルス対策コーナー」No.14、No.15(2017年9月号)

[No.14 2017年9月1日号]

Q&A・居眠り社員の受診命令、懲戒
 病気の影響で就業中に居眠りをする社員が、病院に行かないので居眠りが改善されない場合、受診命令や懲戒処分を課すことはできるでしょうか?
 →詳しくはQ&Aのページをご覧ください。

 

[No.15 2017年9月15日号]

裁判例と労働法務「宮交ショップアンドレストラン事件・福岡高判宮崎支部平29.8.23 30代男性が月平均50時間の残業と直前の出張・クレーム対応により心停止を発症して死亡した事案」

 本件は、食品販売の営業係長がルート営業をし、6か月間の時間外労働が、発症前1か月目46時間、2か月目72時間(平均59時間)、3か月目55時間(平均58時間)、4か月目54時間(平均57時間)、5か月目48時間(平均55時間)、6か月目62時間(平均56時間)であり、発症前1週間に3回の県外出張とクレーム対応をしたことにより疲労を蓄積させ、心停止(心室細動)を発症して死亡したという事案です。

 本件の主な争点は、長期間(発症前6か月間)の時間外労働が月45時間を超えていれば疲労蓄積の要因となるか、短期間(発症前1週間)の出張とクレーム対応が心停止の発症要因となるか、です。

 いわゆる過労死ラインは長期間の時間外労働が月80時間を超えているかどうかですが、判決は「発症前6か月間の平均時間外労働時間は約56時間に達していたのであるから、被災者のこの間の労働は、その時間数に照らし、相当程度の疲労を蓄積させるものであった」と判断しました。脳・心臓疾患の労災認定基準は月45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まるとしていますので、この状態が継続すれば脳・心臓疾患発症の基礎が作られるということです。

 次に出張について述べます。高速バスや鉄道により県外に出張した際の移動時間を労働時間に含めるかが争点となりましたが、判決は出張にかかる移動は労務提供そのものではないとして労働時間に含めませんでした。しかし、労働の量としては評価しないとしても、「出張に伴う負荷は、その移動時間等も含めて、業務の過重性の具体的な評価に当たって検討を要する負荷要因の一つとして考慮する」とし、「バスや鉄道の狭い車内では行動も自ずから制限されるものである上」、「県外出張における1日当たりの移動時間が往復4ないし8時間に及ぶものであったことに照らすと、それに伴う身体的負荷の程度を軽視することはでき」ないと判断して、労働の質的過重性として考慮しました。なお、裁判例においては、自動車の運転、海外出張時の飛行機の搭乗、国内出張時の公共交通機関の搭乗も疲労を蓄積させるものとして労働時間に含めるケースがありますので、安全配慮義務との関係では移動時間を含めた労働時間の適切な把握に留意する必要があります。

 クレーム対応については、食品の腐敗による異臭を大口取引先から指摘を受け、自主回収とバイヤーへの説明をしたというもので、健康被害や取引停止の可能性があったことから、判決は、それ自体が「相当な精神的緊張を伴う業務であった」とし、3回の県外出張と併せ、「強度の精神的、身体的負荷が短期間に集中したことにより、被災者の血管病変等をその自然の経過を超えて急激に悪化させたことによって本件発症に至った」と判断しました。クレーム対応は業務による心理的負荷を生じさせる出来事として精神障害の労災認定基準に列挙されているので、営業社員のストレスを解消するため、担当者に単独で取引先の訪問や謝罪をさせるだけでなく、職場や上司が支援することが労働法務として必要となります。そのために、担当者だけが情報を保持しているのではなく、職場で共有し、認識を共通にすることが肝要です。

 判決が、月80時間に満たない時間外労働を疲労蓄積の要因としたことはもちろん、短期間の過重負荷を発症要因として重視して、業務起因性を認めたことは注目されます。この判決から企業としては、長期間+短期間の過重負荷を総合した安全配慮義務の履行が求められます。

 

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