時間外労働拒否への懲戒-就業規則の合理性と権利濫用

 ある社員に残業を命じたところ、これを拒否して帰った場合、業務命令違反として懲戒処分をすることは可能でしょうか。

 八時間労働制の代表的な例外として、いわゆる三六協定による残業があります。

 三六協定には、時間外・休日に労働させる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数(18歳未満の年少者を除く)、1日および1日を超える一定の期間についての延長することができる限度時間または労働させることができる休日を定めます。残業の事由については、「業務繁忙」という無限定な内容ではなく、具体的に業務を限定することが必要です。

 三六協定が締結されたとしても、直ちに、労働者には、法定労働時間を超えて労働する義務は発生しないのですが、三六協定の範囲内で定められた就業規則の規定があれば、その内容が合理的なものである限り労働契約の内容になるとし、労働者は所定労働時間を超えて労働する義務を負うというのが最高裁判例です。

 三六協定や就業規則の合理性の問題はクリアし、社員に残業に従事する義務が発生するとしても、労働者に残業に従事できない事由があるときはその残業命令が権利濫用により無効となることがあります(労働契約法3条5項)。

 残業命令が権利濫用に当たるかどうかは、残業をさせる業務上の必要性と労働者のやむを得ない事由を総合して判断することになります。当該社員が残業を拒否して帰ったことについてやむを得ない事情がある一方、緊急の仕事が入ったといっても、当該社員が残業に従事する業務上の必要性が高くないのであれば、残業命令が権利濫用となることもあります。

 やむを得ない事由が認められれば、懲戒処分はそもそもできません。このような事情が認められなければ、業務命令違反として懲戒処分が検討されることになります。

 ただ、当該社員を解雇しないまでも懲戒処分を課したら、他の社員に至るまで懸念が生じ、社員を萎縮させて労働意欲を低下させる可能性があります。労働者側に汲むべき事情があれば、まずは「今後同様の行為を繰り返すのであれば処分対象にする」と警告した上で、懲戒処分に至らない厳重注意をすることにとどめるということも考えられます。

 

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