営業秘密漏洩の刑事告訴と損害賠償

 退職した従業員が使用していたパソコンをチェックしたところ、営業秘密に当たる社内会議の議事録やノウハウ集を自宅へ送信していた電子メールの履歴が見つかった場合、元従業員に対して刑事告訴や損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。

 不正競争防止法では、窃取、詐欺や強迫など不正の手段により営業秘密を取得する行為またはこの取得行為により取得した営業秘密を使用・開示する行為を禁止しています。

 「営業秘密」とは、▽秘密として管理されている(秘密管理性)、▽生産方法や販売方法など事業活動に有用な技術上・営業上の情報であり(有用性)、▽公然と知られていないもの(非公知性)をいいます。例えば、社内会議の議事録やノウハウ集について、社外秘や部外秘など営業秘密であると明示して秘密として管理するように指示し、他の情報とは明確に区別して保管すること、閲覧者を制限し、秘密保持誓約書を徴求したり、秘密管理教育を実施したりすることがなされていたとすれば、営業秘密に当たります。

 特に秘密管理性がなければ、営業秘密には当たりません。秘密管理性は、営業秘密に当たる情報に合法的に、かつ現実に接することができる従業員が、当該情報が営業秘密であることを認識できる程度の秘密管理措置を講じているかにより判断されます。

 刑罰を科すには、不正の利益を得る目的、または営業秘密の保有者に損害を加える目的をもって、詐欺、暴行・脅迫、または財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為を営業秘密を取得した場合でなければなりません。例えば、退職した従業員が、当時持ち帰り残業をするために自宅宛にメール送信をしたというのであれば、上記の目的や行為があったとは認められない可能性があります。不正な目的や悪質な行為を証明する証拠がなければ、刑事告訴が受理されることは困難です。

 一方、不正の手段により営業秘密を取得したとして損害賠償を請求するためには、営業上の利益が侵害されたことを証明しなければなりません。ただし、営業上の利益を侵害した者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額をもって、営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定するなど、損害賠償額の立証責任が緩和されています。

また、技術上の秘密(生産方法、情報の評価・分析の方法)を取得した場合、取得した者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生産等をしたときは、その者は営業秘密を使用する行為として生産等をしたものと推定されます。

 不正競争により営業上の信用が侵害された場合は、損害賠償に代え、または損害の賠償とともに、その者の営業上の信用回復措置命令の請求をすることができます。信用回復措置としては、謝罪広告の掲載や取引先等への謝罪文の交付などが考えられます。

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