営業秘密漏洩の予防管理(秘密保持・競業禁止)

 個別の情報漏洩事案について営業秘密侵害者に刑事責任や損害賠償責任を負わせるとの事後対応も重要ですが、それで終わりではなく、これを契機に、企業としては営業秘密を含む機密情報の漏洩を防止する予防管理を講じなければなりません。

 ▽入社時に秘密保持契約を締結する、▽営業秘密の取扱いや漏えいに対する研修を実施するなどの措置を講じていても退職した従業員が機密情報を持ち出すケースが発生しています。秘密保持契約や従業員に対する研修だけでなく、▽社内規程を策定する、▽秘密の表示を明確にする、▽アクセス制限をする、▽担当者や責任者を決める、▽異動時やプロジェクト参加時にも誓約書に署名させる、▽情報漏洩を懲戒処分の対象とするなどの措置も必要です。秘密保持契約においては、抽象的に「営業秘密」と書くだけでは足りず、部署や業務ごとに具体的な情報を列挙した方がよいです。形式的に制度や体制を整備するだけでなく、PDCAサイクルにより定期的な評価・改善をして実効性を保たなければなりません。

 退職後においては、特約により秘密保持義務や競業禁止義務を負わせることとし、また、退職金規程を改定して、退職後に機密情報の取得・使用や競業が発覚した場合には、退職金の全部または一部を不支給にするなどとし、歯止めをかけることも考えられます。ただし、広範かつ長期間にわたって競業禁止をする特約が成立したとしても、競業禁止をする目的や必要性、退職前の従業員の地位、職種や業務の内容・性質、競業が禁止される業務の範囲、期間や地域、代償措置の有無等の事情から、競合他社への転職の禁止が必要かつ合理的な範囲を超える場合は無効になることがあります。そこで、競業禁止をする範囲、期間や地域などを具体的に定めましょう。

情報漏洩を早期に発見して証拠を保全するため、営業秘密が含まれる文書やメディアの管理、コンピュータやネットワークのログの保存、入退室記録の保存、電子メールのモニタリングなどを日頃から行います。

 特に従業員が自己のメールアドレスに営業秘密が含まれる文書や資料を送信するケースが多いですので、電子メールの利用状況を調査して送信ログ等を保存することが肝要です。その前提として、メール調査について就業規則等で調査の目的、調査の方法や時間帯、収集される情報内容とその利用方法等が具体的かつ明確に定め、電子メールの送受信だけでなく、内容までも調査することを従業員に周知して、その定めに従って調査を行う必要があります。ただし、従業員のプライバシー権を侵害しないよう配慮しましょう。

 他方、中途採用するときは、前勤務先との秘密保持契約の有無や内容を確認し、前勤務先の営業秘密の使用・開示をしないなど情報流入を防止する措置を講じて、前勤務先から損害賠償請求を受けないようにすることも必要となります。

 なお、以上の各措置は、従業員だけでなく、取締役、取引先、業務提携や共同プロジェクトを行う他社についても必要となるので、総合的な制度設計を検討することが望ましいです。

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