長期経営計画と事業承継計画を策定・実行するには?

 第1に長期経営計画は、企業の将来のあるべき姿を具体的に示したものであり、企業の目標と、これを達成するための基本方針で構成されるものです。
 長期経営計画を策定するには、後継者が主導し、外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を事業・製品・顧客・機能などの要素別に抽出してSWOT分析とクロスSWOT分析を行い、今後10年間の経営上の課題と事業承継上の課題(承継時期、後継者の選定・育成、社内体制の整備、資産の承継、親族や取引先等関係者の理解、相続対策)を設定することから始めます。その上で、経営者と後継者が、経営理念を共有しつつ、クロスSWOT分析を基に今後を見据えた事業領域の設定や経営戦略の立案を行い、長期経営計画(5~10年)を共同して策定します。この基本戦略を、売上高(営業)、生産性、費用、財務、組織、人材などの要素別にブレークダウンして事業戦略を立案していきます。
 また、キーパーソンとなる役員や従業員も交えて、計数計画(損益計画、貸借対照表計画、キャッシュフロー計画)、各種施策の行動計画(アクションプラン)を策定、実行します。新事業活動や経営力向上に取り組む場合は、「経営革新計画」や「経営力向上計画」を策定します。
 長期経営計画書を作成するに当たっては、経営者と後継者、さらに経営幹部がコミュニケーションを円滑にするとともに、後継者のリーダーシップ発揮の場と位置づけると、事業承継後に計画を実行する後継者の経営責任意識を醸成することに繋がります。
 一方、経営状況が窮境に陥っている場合は、事業内容、業務内容および財務構造を見直す経営改善施策を立案し、事業再生計画または経営改善計画、計数計画、行動計画を策定、実行します。すなわち、損益管理単位(製品・店舗・地域・顧客等)ごとの収益性(限界利益または貢献利益)の高低を基準に、事業内容や事業領域の継続の当否を決めます。継続する損益管理単位ごとに売上高の増加、費用の削減、運転資金の削減を図る経営改善施策を実行する一方、継続しない損益管理単位は売却・撤退することにより、経営資源の分散を回避し、フリーキャッシュフローを向上させます。有利子負債の返済原資を増やすと、支払利息も削減されてフリーキャッシュフローが改善されるとともに、他人資本(有利子負債)と自己資本(純資産額)のバランスも改善されて安全性が向上するのです。
 後継者候補がいなくても、経営課題の把握(見える化)と事業承継に向けた本業の競争力強化(磨き上げ)を実施しますが、後継者が決まったら共有するようにします。
 第2に事業承継計画は、後継者の選定、経営を交代する承継時期、承継後の経営者の役割、後継者の育成方法(社内・社外)、自社株式や事業用資産の後継者への承継の方法と時期、他の相続人への配慮、組織体制や定款・就業規則等の規程類の整備、幹部人材の育成などを定めるものです。
 事業承継計画を策定するには、まず、親族内(推定相続人、非相続人)や企業内(役員、従業員)から次期経営者として適性のある後継者を選定します。事業承継計画の実行には5~10年かかるので、経営者と後継者が共同して事業承継計画を策定し、事業承継の時期を決めるとともに、後継者を計画的に育成します。
 経営権の承継について、非後継者の相続人に適切な配分(非事業用資産や完全無議決権株式の相続)をしながら、後継者に対し、経営者その他株主が保有する株式を原則として総議決権の3分の2以上(できれば100%)になるように譲渡し、代表権を委譲します。特に役員・従業員が自社株式等を買い取る場合は資金調達の手段を検討するとともに、親族の理解も得ておく必要があります。なお、株式譲渡をする前提として、名義株が存在する場合は名義株主と合意した上で株券の交付や株主名簿の変更をしておきます。所在不明株主がいる場合は会社法に基づき競売または売却(自社による買取を含む)を行います。
 資産の承継について、会社または後継者に事業用資産(不動産、特許等の知的財産)を譲渡(売買、贈与)します。生前贈与の場合は、株式とともに、遺留分に関する民法特例を利用し、非後継者の相続人からの遺留分侵害額請求を予防します。納税資金の確保、相続時精算課税贈与や事業承継税制の活用を検討することも必要です。
 知的資産の承継について、経営者が保有する人的資産(技術、ノウハウ、人脈など)、関係資産(顧客・取引先・金融機関とのネットワークなど)といった「見えない強み」をSWOT分析により見える化し、組織知として後継者に承継します。
 経営者の会社に対する貸付金がある場合は、相続が発生する前に計画的に返済を完了させます。
 他方、経営者の会社に対する借入金がある場合は、事業承継の時期までに経営者が返済します。
 長期経営計画と事業承継計画を個別に述べましたが、両計画は相補的に策定し、一体として実行します。その際には、親族、株主、従業員、取引先、金融機関などのステークホルダーに対し、適時に適切な情報開示をすることが計画実行を円滑に進めることに繋がるでしょう。

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