事業承継において金融機関の債務保証を見直すには?

 事業承継においては、後継者が経営者から金融機関の債務保証を引き継ぐことが多いです。この負担の大きさから、後継候補者とその家族の理解を得られず、後継者のなり手が見つからないという事態が生じています。特に相続人でない後継者については、経営者の資産を相続できないことから、保証債務を負うデメリットがより大きくなります。

 一方、経営者は事業承継をしたにもかかわらず債務保証が継続するというのであれば、引退後の生活が不安定となります。しかも、経営者が死亡して相続が発生すると、経営者個人の債務は法定相続分に従って相続人に承継されるので、非後継者である相続人との間でトラブルが発生し、その事後対応に後継者が追われることになります。

 そこで、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」は、金融機関に対し、▽経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない、▽後継者との保証契約の必要性を事業承継に与える影響も考慮して慎重に検討し、新たに保証契約を締結しないか、または適切な保証金額を設定する、▽経営者との保証契約は、経営者が代表取締役を退任し、後継者に議決権の過半数の株式を移転させたといった事情があれば、原則として解除するとの対応を求めています。

 ただし、中小企業は、法人と経営者との関係の明確な区分・分離、財務基盤の強化、財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保をすることが必要です。

 そこで、経営者と後継者は、これらの対応をして経営の磨き上げを行いつつ、金融機関の担当者に試算表を定期的に提出するなどしてコミュニケーションを取っておきましょう。特に経営者の交代により経営方針や事業計画に変更が生じる場合は、金融機関に対して説明を行うことが肝要です。

 この対応ができていれば事業承継をする際に、金融機関に対し、経営者の保証契約を解除すること、後継者の保証契約を新たに締結しないか、または締結するとしても必要な保証範囲に限定し、適切な保証金額を設定することを申し出ます。その際は、経営改善をした上で保証の必要性がないことを説明するのです。なお、保証解除をするときは、新たな借入金だけでなく、既存の借入金に関する保証債務も負わないことを書面で確認した方がよいでしょう。

 中小企業が過大な金融債務を負い、経営者が債務保証をしている場合はこれが障害となり、事業承継が困難となることがあります。このような場合でも、経営者が事業を継続させる強い意志を固め、計画的な経営改善を実行して本業のもうけである営業利益を稼ぎ、有利子負債の返済原資となるフリーキャッシュフローを継続的に増やしていくことが重要です。これにより、事業承継を早期に実行する可能性が高まります。

 それでも経営が窮境に陥っており、後継者に過大な債務保証を引き継がざるを得ない場合は、事業承継前に中小企業が負う主たる債務と経営者が負う保証債務の整理を行い、債務を圧縮しなければなりません。

金融債務の免除を受ける際は、金融機関から経営者の退任が求められるため、それにより経営責任が明確になります。その意味でも事業再生は事業承継を行う機会となります。これに対し、経営者が引き続き経営に携わる場合、「経営者保証に関するガイドライン」は、保証債務の全部または一部の履行、役員報酬の減額、株主権の全部または一部の放棄、代表者からの退任等の経営責任を取らなければならないとしています。

 いずれにせよ、商取引債務は引き続き支払いができる、従業員の賃金や税金・社会保険料の滞納がないという条件を満たせば、法的整理手続ではなく、経営者保証ガイドラインが推奨する「準則型私的整理手続」を利用し、主たる債務と保証債務を一体的に整理することが望ましいです。

 これにより、親族内承継や従業員承継だけでなく、M&Aにも取り組みやすくなります。

 仮に廃業する場合でも上記の条件を充足すれば、経営者個人にオーバーローン不動産があっても準則型私的整理手続を利用することができるので、安易に破産を選択すべきではありません。準則型私的整理手続では、破産手続における自由財産(一時停止要請後の収入、現金99万円など)を超える「インセンティブ資産」(一定期間の生計費や華美でない自宅など)を残すことができます。ただし、インセンティブ資産は、破産手続を採らずに準則型私的整理手続に早期に着手したことにより、破産手続よりも金融機関の回収見込額が増加した金額が上限となります。また、換価資産よりも賃金や税金・社会保険料の滞納額が多い場合はゼロ円弁済でも認められる可能性があります。

 どの場合でも、早めに金融機関と債務保証について交渉を開始した方がよいので、事業承継を検討する際は交渉の代理ができる弁護士にご相談ください。

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