労働者側請求対応で「謝ったら負け」か
交通事故では、「謝ったら負け」で、陳謝した方が損害賠償責任を負うとよく言われることがあります。加害者が損害保険会社からこのように言われて被害者に謝りにも行かないので、被害感情が悪化し、被害者の姿勢がかたくなになり、解決が長引くといった場面を目にします。
交通事故といった契約関係がない場合でも、弁護士から見ると「謝ったら負け」という態度は適切でないと考えていますが、企業は、メンタルヘルス不調になったり死亡したりした労働者との間に労働契約関係があったのですから、なおさら労働者側(特に遺族)に謝らないという態度は不適切となります。
そこで、まずは初期対応を迅速に行うことが重要です。初期対応としては、早期に証拠の保全や関係者の事情聴取を行う、窓口を一本化する、適時に労働者側に連絡を取ることが必要です。
この段階で、労働者や遺族に不快な思いをさせたことや迷惑・不便を掛けたこと、初期対応が遅れたこと、説明に行き違いがあったことについて陳謝することを躊躇しない方がよいです。陳謝したからといって法的な責任が直ちに発生するというわけではありません。法的責任の有無から理詰めで対応すると、労働者側の感情を害することになります。むしろ企業の社会的責任の観点からも、陳謝すべき内容を明確にした上で陳謝した方が、被害感情を和らげることになるでしょう。
詳しくは、拙著「管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務」の第3章「メンタルヘルス不調の防止マネジメント」で論じていますので、併せてご参照いただければ幸いです。