残業削減目的の固定残業代制の導入

 夜の残業時間を減らすため、月30時間分の固定残業代を支払うこととし、代わりに朝の出勤を奨励するため、午前5時から8時までの間は深夜労働と同じ割増賃金を支払うとの内容で、就業規則を改定をすることはできるのでしょうか。

 まず朝残業については、労働者にとって有利な変更であるので、特に問題はありません。ただし、早出の時間が午前5時より早い深夜時間帯でなければ、午後10時以降の深夜時間帯に就労するよりも人間の生理に適っていると思われますが、早出でも残業となる場合は、深夜労働と同じ割増賃金を支払うだけでは足りませんので、朝残業の労働時間を把握した上で残業代の計算をしなければなりません。

 次に固定残業代制の導入について、基本給を減額しつつ固定残業代に相当する賃金項目を新たに設定して総額を変更しないのであれば、労働者にとって不利益な変更に当たるので、労働者の自由な意思に基づく同意がない限り無効と判断するのが裁判例の傾向です。

 他方、基本給を変更しない場合でも、30時間を超える分の残業代の差額を支払わないのであれば、就業規則の不利益変更に当たりますし、逆に残業代請求を誘発させる危険性があります。

 最高裁判例は、通常の労働時間の賃金と固定残業代が判別可能で、固定残業時間分を超えた場合は差額を支払うことが合意することが必要としており、この要件を満たさず、抽象的な固定残業代の規定のままでは、これを無効にするのが裁判例の傾向です。

 そして、裁判例は、矛盾した説明や不十分な説明のまま、労働者が同意書に署名押印したとしても、労働者の自由な意思に基づかないとして、同意の効力を認めていません。そこで、従業員に対する説明会では、自分であれば残業代がいくらになるのかが分かるような資料を配付し、丁寧な説明をしてください。従業員から質問が出れば、きちんと回答した方がよいです。

 また、就業規則の変更には労働者の個別的同意は必要ないのですが、賃金という重要な労働条件に関する変更ですので、従業員の理解を得た上で、個別に同意書を取得した方が無難です。企業が説明責任を果たした上でサインさせることが肝要でしょう。

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