就業規則では清潔な服装や身だしなみを求めており、従前はこの規定に沿う服装をしていたのに、従業員が突然奇異な服装で出勤してきた場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。
いつもの従業員と明らかに異なる場合、何らかのストレスや悩みを抱えている可能性がありますので、まずは直属の上司が別室で話を聴き、仮にメンタルヘルス不調により問題行動を起こしていると推測されるのであれば、管理監督者または人事労務管理スタッフは専門医の受診を勧めた方がよいでしょう。
これに対し、変化の原因が病気によるものではなく、職場秩序を乱したと認められるとしたら、問題行動の内容に応じた懲戒処分を検討することになります。
しかし、労働者がどのような服装を身につけるのかは、原則として、個人の自由です。
使用者が労働者の自由を規制することはできるのかというと、その根拠は労働契約に求められます。そうである以上、労働者の自由を制約し、労働者が清潔感のある服を着る義務は、労務提供義務に関連する合理的な範囲内に限られてきます。
裁判例では、ハイヤー運転手が口ひげを生やしたところ、口ひげを剃らないことを理由に乗車を拒否されたケースがあります。労働契約上、ハイヤー運転手が清潔な身だしなみを要求されることは職務の性質から当然ともいえますが、口ひげが一般的に不潔であるとは認められないので、東京地裁判決は、使用者が規制できる範囲を、「無精ひげ」、「異様、奇異なひげ」に限定しました。
この裁判例からすると、就業規則の規定があるといっても、服装に関していえば、同僚や顧客に不快感を与える異様・奇異な色や形に限定されていると解釈されます。当該従業員の服装が異様・奇異な色や形であれば、まずは就業規則の規定に基づき、管理監督者または人事労務管理スタッフが清潔感のある服を着るよう指導し、それでも継続するのであれば懲戒処分を検討します。ただし、業務に具体的な支障をきたしたことはないというのであれば、厳重注意をすることにとどめるということも考えられるでしょう。