受動喫煙と会社の安全配慮義務

 受動喫煙症で休職している従業員が、「煙草の煙に配慮すれば勤務可能」という診断書を提出し、座席を喫煙室から離れた場所に移動することを要望したけれど、会社がこれを許可せず、復職できずに退職した場合、会社の安全配慮義務が問われるのでしょうか。

 裁判例は、使用者が受動喫煙の危険性から労働者の生命および健康を保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負うことを認めており、労働者が業務の遂行における受動喫煙による体調の変化を具体的に訴えることにより安全配慮義務が発生すると判断しています。東京地裁判決は、平成8年1月12日に診断書が提出された時点で、「受動喫煙による急性障害が疑われる原告を受動喫煙環境下に置くことによりその健康状態の悪化を招くことがないよう、原告の席後方二、三メートルの位置に設置されていた喫煙場所を撤去するなどして原告の席を喫煙場所から遠ざけるとともに、自席での禁煙を更に徹底させるなど、速やかに必要な措置を講ずるべきであったにもかかわらず、同年4月1日に原告の希望に沿って異動させるまでの間、特段の措置を講ずることなく、これを放置していた」と認定して安全配慮義務違反を認めました。

 安全配慮義務を履行するため、座席の移動ができないのであれば、職場を全面禁煙にするか、喫煙場所を屋外に設置するか、喫煙室を維持するとしても屋外へ強制排気する機器や空気清浄機を設置するといった対策を講じる必要があります。

 場合によっては、休職した従業員を配置転換することも検討すべきですが、座席移動を拒否するだけで、具体的な対策を講じなかったことについて会社の対応に問題があったといえます。

 しかし、対策が不十分であったことと、安全配慮義務違反により会社に損害賠償責任が発生することとは別です。裁判例においても、損害賠償請求を認容した事案は少ないです。一般論として安全配慮義務が認められたとしても、その違反が認定されることは容易でないということです。

 とはいえ、合法か違法かではなく、妥当か不当かという観点から検討した場合に、会社の対応に問題があったとすれば、社内で対応策を検討する必要があります。

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