年次有給休暇の時季指定義務の履行と特別有給休暇の廃止

 労働基準法は、全事業場を対象に、年次有給休暇を10日以上付与する労働者に対し、使用者が5日分について1年以内に時季指定をする義務が罰則付きで課しています。

 そのため、就業規則に定められている夏季休暇を廃止する代わりに年次有給休暇の時季指定をしようとしている企業が少なくありません。

 労働契約法は、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして不合理なものであるときは、その効力を有しないと定めています。

 就業規則に夏季休暇が定められており、これが有給であったとしたら、労働基準法に規定する年休とは別の有給休暇になり、労働条件の一部となります。

 この夏季休暇を特別な有給休暇とすることを廃止し、法定の年次有給休暇を取得するように変更することは、単純に有給休暇の日数が減ることになりますので、労働者に不利益があり、その程度は小さくないといえます。

 年次有給休暇の消化率を向上させる必要はありますが、労働条件の最低基準の上積みである特別有給休暇を廃止して年休の時季指定をすることは、労働者に不利益を負わせる形で労働基準法に基づく義務を履行しようとするものであり、就業規則の変更の必要性が否定される可能性があります。

 法定の年次有給休暇とは別に、特別有給休暇として夏季休暇を就業規則で定める企業は少なくなく、特別有給休暇を廃止して夏季に年休を消化させることは社会的に相当ではないと評価されるかもしれません。

 それにもかかわらず、使用者が改正法の施行に間に合わせるため、就業規則の変更の必要性を説明していないと思われるケースも散見されます。

 就業規則に特別有給休暇を定めている以上、これも労働契約の内容になっています。就業規則は使用者が作成するものであるとして一方的に変更すると、裁判所において変更の効力が否定されることがあります。

 労働契約の変更には労働者の同意が必要であるというのが労働契約法の原則ですので、就業規則の変更であっても、労働者側に十分な説明をして理解を得る必要があります。特別有給休暇を廃止する必要性があるとすれば、単に説明をするだけではなく、経過措置や代償措置を検討し、できる限り労働者の不利益を緩和することを提案しましょう。裁判所も、就業規則の不利益変更の効力を判断するに当たって経過措置や代償措置の有無や内容を重視しています。

 労働者から見れば、これまで保障されていた労働条件が突然引き下げられれば、モチベーションが下がります。労働基準法を遵守しなければならないが、他方で有給休暇を取得させる日数を増やせないのが現状であるという企業もあるでしょうが、これにより労働者の組織への貢献意欲が下がるとパフォーマンスも下がることとなり、企業の経営目的を達成するのにマイナスに働くこともあります。これは目に見えないリスクであり、知らず知らずのうちに売り上げが下がるということになりかねません。

 使用者が一方的に決めるのではなく、ステークホルダーでもある労働者側と話し合いをしながら妥協点を見出すことが、企業のゴーイングコンサーンにとって必要であると思われます。

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