運動競技会出場の業務性-労働災害や労働契約をめぐる企業の対応

 労働者が体操競技の全国大会への出場が決まったことから、大会参加とその前2週間の練習は出勤扱いとする場合、就業規則に規定がないとしたら、使用者としては、どのように対応すればよいのでしょうか。

 体操競技の全国大会に出場した労働者について、所定勤務時間中の練習や所定勤務日における全国大会出場を「労働」として扱うので、労働契約の変更になりますが、当該労働者にとっては有利な労働条件の変更となりますので、当該労働者と使用者が合意すれば、就業規則とは異なる取り扱いをしても無効にはなりません。

 それでは、練習や大会出場については、どの範囲で出勤扱いにすればよいのでしょうか。

 行政通達は、対外的な運動競技会への出場が「業務行為」と判断する要件として、(1)運動競技会出場が、出張または出勤として取り扱われるものであること、(2)運動競技会出場に関して、必要な旅行費用等の負担が事業主(使用者)により行われ(競技団体等が全部または一部を負担する場合を含む)、労働者が負担するものではないことを挙げています。ただし、労働者が個人として運動競技会に出場する場合は、上記2つの要件を形式上満たすにすぎないのであれば、使用者の便宜供与があったとしても「業務行為」とは認められないとしています。

 また、運動競技会が複数日にわたって開催されるために競技会場付近に宿泊を要するような場合、宿泊を含む出張命令が発せられたときは、原則として、当該宿泊施設における行為全般に業務遂行性が認められます。

 ですから、就業規則を変更する必要はありませんが、当該労働者との特別の労働契約書において、全国大会への出場を出張または出勤として取り扱うこと、全国大会出場に必要な旅行費用、宿泊を要する場合の宿泊施設等の費用を使用者が負担することなどを取り決めておいた方がよいでしょう。

 また、業務行為として全国大会に出場する場合は、出張計画を作成し、宿泊を伴う場合は宿泊施設等における練習計画を策定しましょう。

 そうでなければ、労働災害(労災)も認められませんので、留意してください。

 次に練習についてですが、行政通達は、上記2つの要件に加え、使用者があらかじめ定めた練習計画に従って行われることが必要であるとしています。ここでいう「練習計画」は、練習にかかる時間、場所および内容が定められていることが必要ですが、使用者があらかじめ認めた範囲内において、労働者に当該練習計画の変更についての裁量が与えられているものであってもよいとしています。

 したがって、練習計画とは別に、労働者が自らの意思で行う運動は、ここでいう「練習」には該当しないとしています。

 例えば、練習計画においては練習が所定労働時間内で終了するものと定められており、労働者が練習時間の延長にかかる裁量が与えられていないにも関わらず、自らの意思で所定外労働時間にまで延長して行った練習は業務行為とは認められません。また、運動競技会が複数日にわたって開催されるために競技会場付近に宿泊を要するような場合、練習計画とは別に、労働者が自らの意思で当該宿泊施設において行う運動は、業務行為とは認められません。

 練習計画はなるべく書面で作成することが望ましく、その内容は練習計画の実態を有するものとし、その目的や事業主の指揮監督が及ぶことを明らかにした方がよいです。単に計画を策定するだけではなく、練習計画の内容に沿って練習が行われている実態や使用者が指揮監督をしている実態を有することも必要です。

 当該労働者が競技団体からの委嘱を受けて合宿や競技会に出場した場合も、業務行為と認められる場合があります。使用者が業務行為と認めるのであれば、出張計画や練習計画を策定し、必要な経費を支出するとともに、出張命令を出しておくことが肝要です。

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