酒食を伴う社内会議後の事故の怪我は通勤災害と認められるか

 月初めに各営業所の所長を集めて会議を行い、会議終了後は、業務上の問題点やトラブルの対応策、業務の改善案など、業務に関する意見交換をする場として、任意参加の酒食を伴う会議を開催していたところ、その会議を主催した部の部長が会議終了後帰宅途中に駅の階段から転倒して怪我をした場合、通勤災害として労災保険給付が支給されるのでしょうか。

 まず酒食を伴う会議が業務と認められるのか、すなわち通勤と仕事との関連性(就業関連性)が認められるかどうかが問題となります。

 酒食を伴う会議や接待であっても、業務と認められれば、往復行為(帰宅行為が多い)と就業関連性が認められるとの運用が実務ではなされています。

 例えば、会議とその後の酒食を伴う懇親会が当初から酒食を提供する飲食店を会場としていた場合であっても、懇親会前の会議の業務性を認めた上で、懇親会(13名出席)では、全体で、ビールが6、7本、日本酒がとっくりで5、6本程度出されただけであり、アルコール量は少量にすぎず、時間は約55分間にすぎなかったこと等から、懇親会移行前の業務と懇親会終了後の帰宅行為との関連性は失われていないとして、通勤災害と判断された裁判例があります。

 会議で懇談される内容は、業務上の問題点やトラブルの対応策、業務の改善案など業務に関するものであって、会議は、業務の円滑な遂行を確保することを目的とするものであり、会議での意見等が反映されて実際に事務の効率化や従業員の苦情を解消するなど業務が改善されていたのであれば、たとえ酒食の提供を伴うものであったとしても、その目的の妨げとなるものではなく、また、部長が上司から会議への出席を命じられており、酒食の費用は会議費として使用者が負担していたのであれば、部長が会議に出席することは、部の統括者としての職務に当たり、使用者の実質的支配下にあったものと認められます。

 次に酒食を伴う会議が長時間にわたる場合は、その終了後の帰宅は就業関連性があるといえるのかが問題となります。東京高裁判決(平成20年6月25日)は、会議の目的に従って行事が終了して業務性がなくなった後の約3時間、参加者と飲酒したり、居眠りをしたりしていたから、就業関連性は認められず、通勤災害ではないと判断しました。

 わが国の企業社会においては、社内で酒食を共にしながら意見交換をすることが必要なこともあると思われます。

 たとえ酒食を伴う会議に懇親の目的も含まれるとしても、業務に関する話し合いが持たれるのであれば、まず会社側が業務性を認めるという明確な対応が求められます。一方、業務性を認めると、たとえば残業手当の支給対象となるから、会議の時間は区切るべきでしょう(目安としては2時間程度)。

 いうまでもなく業務なのですから、アルコールの量は制限されるべきです。大量飲酒により泥酔・酩酊して階段を踏み外したとすれば飲酒の影響によるものとして通勤と事故との因果関係(通勤起因性)が否定される可能性があるからです。

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