事業者が労働者を雇い入れる際に、健康診断を実施しなければなりません。正社員に限らずパートタイムや嘱託でも、定期健康診断の周期(一般的には1年、深夜業などに就く場合は6か月)を超えて雇われる予定なら、対象になります。
雇入れ時の健康診断を実施する時期は採用前でも後でも構わないのですが、健康診断項目は法令で決められており、省略できません。ただし、採用前3か月以内に医師の健康診断を受け、結果を証明する書面を提出すれば、重複する項目を省くことができます。
一方、業務に欠かせない能力を見極めるためなら、検査項目を追加できます。事前に必要性を説明し、労働者の同意を得ることが前提です。不要な検査で健康や疾病に関する個人情報を安易に取得し、これをもとに解雇などをすることは許されません。
検査の必要性や採用取消しの是非は、裁判で争われてきました。例えば、金融機関から口頭で内定を予告された後に健康診断でB型肝炎ウイルスへの感染が判明し、採用を見送られた新卒者が損害賠償を求めた裁判があります。裁判所は、正式な内定前だったので採用見送りは不法行為に当たらないと判断しましたが、必要性を説明せず、本人の同意を得ずに検査をしたことはプライバシーの侵害にあたるとして、金融機関側に慰謝料の支払いを命じました。また、警察官として採用された後、警察学校に入る際の血液検査でHIV(エイズウイルス)感染が判明して辞職させられた男性が起こした裁判でも、同意を得ずに必要のない検査を実施したことや結果に基づいて辞職を強く勧めたことは違法と判断されました。
特段の理由もなく検査をして、特定の病気の人を雇わなかったり、本採用を拒否したりすれば、差別につながりますので、ご留意ください。