労働災害や過労死が発生したとき、企業はどのように対応すべきか?

 労働者そのものをリスクと捉えず、人格を持った人間として信頼する-この「信頼」を基礎に労働者の健康を守ることが企業の収益に結びつきます。

 労働災害・過労死事件が発生した段階でも、「信頼」を基礎とした戦略的労使関係を念頭に置いて対応することが重要です。この方針のもとに対処すれば、紛争の発生や長期化というリスクをより減らすことはできるでしょう。

 被災した労働者や遺族が企業を訴えるメルクマールは、企業との信頼関係が破壊されたと感じるかどうかです。労働者は、過重労働によるストレスに対する辛い思い、健康障害による労働能力喪失、最愛の家族が苦しんだ挙げ句生命を奪われた哀しみといった感情を抱いています。これに加えて、遺族は真実を知りたいという気持ちがあります。このような感情や気持ちが害されたとき、労働者や遺族は、企業との信頼関係が破壊されたと考え、紛争に発展するのです。

 したがって、企業としては、まず労働者や遺族の言い分に耳を傾け、相手方の立場に立って気持ちを理解することが必要です。労働者側の話を聞く際には、先入観を持たずに、素直に聴く、話の腰を折らないという態度が必要です。ただし、共感しすぎる必要はありません。

 また、担当者が私見を述べる、断定的な言辞をする、反論や否定をするのは、相談を受ける側が固有の価値観を押しつけたと受け止められ、従業員側の会社への不満が昂じて、感情を悪化させます。

 初期対応を迅速に行うことが重要であり、早期に証拠保全や事情聴取を行う、窓口を一本化する、適時に労働者側側に連絡を取ることが必要です。この段階で、不幸な出来事が発生したこと、報告が遅れたこと、説明に行き違いがあったことについて陳謝することを躊躇しない方がよいです。陳謝したからといって法的な責任が直ちに発生するというわけではありません。むしろ労働者側の感情を和らげることになるでしょう。

 そして、事実調査の結果、企業として陳謝する事案か、それとも争う事案かの方針を決めます。前者の例として長時間労働があった、後者の例としてパワハラの事実は確認できなかったといった結果が判明したら、受け身の姿勢ではなく、労働者や遺族の心情を理解しつつ、裁判に至った場合の影響を予測し、早期に方針を決めましょう。

 「陳謝する事案」であれば、早期に情報を開示して示談の申し入れをした方がよいです。この場合、示談と裁判のラインをあらかじめ引いて交渉することになります。このラインは裁判例をもとに検討することになり、労働者側がラインを大幅に上回った請求をしてくるのであれば示談による解決ができなくても致し方ないでしょう。

 「争う事案」であっても、裁判になるとイメージダウンにより売上の低下に影響するといった観点から示談を申し入れるとの検討が必要ですし、新たな証拠が見つかるなどして方針決定の前提が崩れた場合は「示談と裁判のライン」を引き上げるといった早期の方針変更をする必要があります。

 示談交渉や裁判となり、紛争に発展した段階では、労働者側との「信頼」だけでなく、危機管理と企業防衛という視点を取り込んで検討しなければなりません。初期段階での「議論をしない」という対応もとる必要はなく、反論すべき点は反論した方がよいです。その場合でも、反論の時期や表現によっては労働者側の感情が悪化することがあるので、慎重な検討をしましょう。

 

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